よく、「海外に赴任した駐在員家族で、子供が一番現地語が身につく」と言われる。
また、「英語は日本語にない音が多いので、一定の年齢までに聴けるようにならなければ身につかない」ともよく言われる。
今回はこのことについて、多くの駐在員家族や移民家族を見てきた経験から語りたいと思う。
子供は本当に「話せて」いるのか
よく、「英語なんて、アメリカや英国に行けば赤ん坊でも話せるじゃないか」という人がいるが、これには明確に異議を唱えたい。
これは最近「ものすごく可愛い!」と話題になった動画である。
2歳の男の子が、母親がキスもしないで仕事に行った!ということを怒って父親に伝えようとしているのだ。
英語で言うとtoddler (よちよち歩きの子供)、つまり赤ん坊ではないのだが、彼はこんな風に話している。
And Mama, and me, and (チュッというキスのジェスチャーのあと、それがないというようなジェスチャー)and work
それを受けて父親が”She didn’t give you a kiss?”と言い、子供がそれを受けて”work (発音はwoとしか行ってないように聞こえる)”と言い、父親が”and she just went to work?”と言うと、Yeah!と言っている。
つまり、完全なる片言でセンテンス(文章)はまだ言えないのである。
しかし日本人の2歳児も同じようなものである。
子供がいない人で、身近にも全然子供がいない人だと、子供がどういう感じで話しているか忘れてしまうのかもしれないが、中には子供がいる人でもここのところが抜けているかのような発言をしている人がいる。
何故だろうかと考えるに、日本語は割と単語の羅列でも口語として成立するのだが、英語はそういうわけでもない。実は英語(に限らず、殆どのヨーロッパ言語がそうだと思うが)は語順は意味を伝えるのに非常に大切で、これをごちゃごちゃにすると意味が伝わらなかったり、全くのカタコトになってしまう。
だから動画の親子も、連想ゲームのようにお父さんが推測して内容を考え、確認するような形になっている。
しかし日本語は口語においては案外語順は適当にしていても通じるし、大人でもぞんざいな気分で話している時にはしっかりしたセンテンスを組み立てないで話していることが多いと思う。
幼稚園や小学校に入った子供が「馴染むのが早い」のはゴールが低いから
もちろん、子供の耳が大人より適応性が高いのは本当のことなのだし、それが彼らの言語適応性の高さに起因していることも本当であろうと思う。
しかし一番大きいのは、子供が自分の思考を再現したり、自分なりの用事を済ますのに必要な言語力が、大人よりも圧倒的に低くて済むから、である。
子供の方が先に話せるようになった!と親御さんは言うが、しかし5歳や6歳の子供が、例えば旅行会社に電話して予約したりできるだろうか?
会社で客先からかかってきた電話に対応できるだろうか?
そこまでいかなくても、日本語で考えてみたらわかると思うが、小学1年生は中学生と対等には会話できない。
会話するとしたら、中学生の方が小学1年生を可愛いと思って、わかるように言葉を選んだりなど工夫して話しているのが普通だと思う。
つまり、当たり前のことだが、年齢が低いほど必要な単語数も少なくなるし、文章も複雑でなくて良い。
しかし大人は、既に日本語で確立された思考や、大人として生活に必要な言語レベルが高いので、それができないと話せると言う自覚は持てない。
実際に5歳児の現地の子供と同じくらいに英語が話せたとしても、それでは大人の自分の用は足せないので、「まだまだ英語が話せない、カタコト」という自覚になるのである。
幼稚園や学校のクラスメートの話す英語(現地語)もあまりレベルが高くないから
これは上の項目と重複することなのだが、とりあえず最初はもちろんいくら小さい子供でもいきなり話し出すことはないので、孤立してしまったり可哀想なところはあると思う。
しかし今まで色んな駐在員、移民家庭の方と話していた印象では、幼稚園児なら数ヶ月、小学校低学年でも半年とかからず輪の中に入れるようになるようである。
小学校だとESLといって、英語が母語ではない外国人の子供用のサポートがあることもあるようだが、大体低学年までだと馴染むのは早いという。
これは毎日学校に行って、毎日クラスメートが話しているのを横で聴いていると、彼らの話の範囲は広くない。人気のあるテレビの話、ゲームの話を中心に、皆が同じ限られた単語、フレーズで似たり寄ったりな話をしているし、相槌にしても子供同士の会話のシチュエーションも非常に限られているので、同じことが繰り返される頻度が圧倒的に高い。そして文章も複雑ではない。
そのため、子供は覚えられるのである。
親の方も、もし現地社員が多い社内で彼らと話すとすれば、それはおそらく仕事に関する限定的な会話で、発音はともかくとして本気になれば割と数ヶ月でそれはこなせるようになるはずである。
しかし親の方が「全然話せない」という感じで、子供の方が話せる自信に満ち溢れているのはなぜかといえば、親の方は現地社員との日常会話で日々つまづいているからである。
でも書いたように、「日常会話」というのはIt’s cold, isn’t it?のようなすぐ話せるようなレベルのものから、見たテレビの話、見たことがない人に自分が見てきたものを説明する、または国の制度について説明する、など多岐に渡り、当たり前だが大人の方が複雑に話している。
しかも大人になるほど、個人のライフスタイルが異なるので「それ何?」ってところからの説明が多くなる。子供は似たような生活を送り、似たようなテレビを見て、ゲームで遊んでいるので暗黙の共通項が多いのである。
そのため、会社にいて、ネイティブ同士の会話を側で聴いていても、毎回違う内容、新しいフレーズや単語が展開されているので、子供の会話にあるような「繰り返し」が少ない。
子供が側のクラスメートの会話で何度も出てくる言い回しを繰り返し聴いて覚える、というような感じにはならないのである。
子供の方がネイティブのような発音、そして相槌などが身につくのは、もちろん耳がいいのが大きいが、同じことの反復というのもかなり大きな要素であると思う。
また、大人は現実問題として、ネイティブの輪には入れない。
もちろん職場で同僚として尊重もされるし、お弁当などを持っていけばそれについてにこやかなコメントをしてくる人もいたり、天気の話などもするし、当然仕事の話もする。
しかし、ネイティブ同士のガチの会話には入れないし、向こうも意地悪する気ではなく、入れてくれない。
彼らは語学教師ではないので、どんな風に話せば外国人に理解しやすいかもわからないし、また発音の悪さの癖もわからない。普通の人は忍耐強くないので、「英語が話せない外国人」に対してそこまで心を開いて話したりはしないし、適当に切り上げてくる。
これは日本で、日本語がそこまで上手ではない外国人と話す機会がある人なら想像がつく話だと思う。(複雑なことを言ってもわからないだろう)と思うから、こちらも単純なことしか話さないし、表面的なことしか話さないのではないだろうか。
そこへいくと子供の場合、上記のように単純な会話の反復の中、最初は話せない外国人、と思って相手にしていなかったのに、それなりに話せるようになっていて自分たちとの会話についてこられるのだから、自然に輪に入れるようになるのである。
子供と大人にはこういう違いの事情があることを念頭に入れておくことは大事だと思う。
そこへいくと、大人はネイティブの多い環境にただ入るだけでは難しい。反復練習から始めることは必須なのだが、この方法論さえ間違わなければ、もちろん大人も英語を身に付けることはできる。
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